BMW318i ちょっとオシャレな大人のスポーツセダン

軽快なジャズのイントロで目を覚まし、時計を見ると午前7時、渋々ベッドから抜け出してリビングルームに移ると、そこには既に明るい朝日が差し込んでいる。

南側が全面ガラスの26階のこの部屋から、眩しさに目を細めながら真下のプールに目をやると、一人の女性がもうエクササイズらしい水泳を始めている。

「今日も暑くなりそうだ」と呟きながらシャワーを浴び、トーストと珈琲で軽めの朝食を済ませてから身支度をする。

そして薄めのブリーフケースと車のキーを持って部屋を後にし、エレベーターでB2の駐車場へ行くと、そこには縦が短く横に長いナンバープレートを付けたワインレッドのBMWが・・・ 後ろのドアを開けてブリーフケースを後部座席に投げ込み、運転席に座ってエンジンを始動する。

そしてその軽快なサウンドに笑みを浮かべながらセンターコンソールからサングラスを取り出し、地下駐車場を後にして高層ビルが立ち並ぶ勤め先のオフィスに向かう男。

lgf01a201401170800【著作者:Ghostbuster^】

こう書き始めると、これはまるでハリウッド映画の一コマのようなシーンですが、実はその主人公は私自身なのです。

そして映画のシーンでは無く、私のシンガポールでの日常生活の一コマなのです。

実際には牛乳一杯で済ます朝や、南国特有のスコールで「今日は会社に行きたくないな」と呟く朝もありましたが、愛車BMW318iの心地よい乗り心地を楽しみながら快適な車通勤生活をしていたことは紛れもない事実であります。

シンガポール生活での車選びとその価格

1999年2月、私にとって2度目のシンガポール生活は単身赴任で始まりました。

34階建ての高層アパートは、低層階がショッピングモールやレストラン街、そして敷地内にはテニスコートや広大なプールが或るとても便利な所でした。

また、地下2階には居住者専用の駐車場がありましたので、一年中暑いシンガポールでも、駐車後のあの暑さとは無縁でしたが、単身生活を始めたばかりの私にはそこに駐車する車がまだ有りませんでした。

lgf01a201405201700【著作者:Luke,Ma】

勿論、着任後1ヶ月以内には車を購入するつもりではいたのですが、そこには或る迷いがあったのです。

その迷いとは、最初のシンガポール暮らしの時の車購入と売却にまつわる経験からのもので、「日本車」にすべきか「欧州車」にすべきかの決断と、「新車」にすべきか「中古車」にすべきかの決断でした。

最初のシンガポール生活は1993年の秋からの2年と少しでしたが、いくらタクシー料金が安い国とは言え、車の無い生活を経験したことのない私にとっての必需品はやはり車でした。

家族全員で移り住んだことから車種選定にはファミリーの意見も反映し「日本車の新車」でポピュラーな「日産サニー」にしました。そしてその価格は当時の日本円換算で約630万円でした。

日本国内での価格は恐らくこの4分の1位であろうこの車が何故この価格に?

ディーラーの販売員からは以下の説明がありました。

1⃣日本人から見れば国産車でもこれは輸入車であり、輸入関税その他の税金約200%が加算される。

従って、日本で160万円ならば320万円程の税金が加算されて480万円になる。

2⃣次に、シンガポール独特のCOE(自動車購入権)の取得に必要な費用が約150万円なので、それを加算すると合計630万円になる。

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このCOEとは、国土が狭いシンガポールでの車の全体量調整の為に政府が発行する限られた数の自動車購入権であり、その取得価格は「競り?」によって決められるとのことでした。

こうして1500ccの高級輸入車「日産サニー」を630万円で購入したのですが、2年後には別の国への転勤が決まり、中古車として470万円で売却したのです。

日本での一般的なケースでは、新車の2年落ち価格は約半額との認識がありましたので、この4分の3の価格には満足できたのですが、考えてみれば630万円-470万円は160万円であり、日本での新車価格相当分の値落ちとなった訳でした。

こんな経験から、2度目の車購入には慎重になり、2年間の使用を想定しての車選びで前述の迷いがあったのです。

やはりBMW、そして人気の318i

色々検討した結果「日本車も欧州車も同じ輸入車として、それほどの価格差が無い事」と「今回は単身赴任なのでファミリーの意見を考慮しなくても良い事」から、「自分が乗ってみたかった欧州車」の中から選ぶことにしました。

とは言っても、日本同様に人気のあるドイツ車等の新車価格はやはり高額でしたので「2年落ち程度の中古車でも良い」としました。

その結果最有力ターゲットとなったのが、当時現地で大人気であったドイツBMW社のエントリーモデル「BMW318i」でした。

 

ところが海外での中古車購入経験が無い私には、どのような方法で品質の高い車を探し、どのようなプロセスで購入したら良いのかが分りませんでした。

そこで相談したのが、25階の高層アパートを紹介してくれた地元の不動産業者の社長です。

彼が乗っていた車もBMWでしたので、何等かの中古車情報を持っているのではと考え、彼にその希望を伝えたところ、1週間後には、個人売買で318iを売りたい人がいるとの情報を届けてくれ、その人との面会やその車の試乗までアレンジしてくれたのです。

不動産取引のように仲介手数料を取られるのでは?との懸念もありましたが、住宅では良い物件を紹介頂き、アフターフォローも良かったので信頼することにしました。

そしてその後、仲介手数料の話も無く、BMW318iの試乗日を迎えたのです。

BMW318iの試乗、そしてオーナーに

当日は不動産屋さんの車で約束の場所に行きましたが、そこには既にBMW318iが停まっていました。

キドニーグリルのその姿は見慣れたものではありましたが、第一印象としては、ワインレッドのボディーカラーとベージュ系の本革張りシートが醸し出すオシャレな大人のスポーツセダンでした。

シルバーやグリーン、そして白のボディーカラーは街でよく見かけていましたが、その色は珍しく、とても新鮮に感じたのです。

売主への簡単な挨拶が済むと、彼はその車の説明として次の事を話し始めました。

☑モデルは1997年式 “E36”で、欧州仕様の輸入車である事。
☑OHC直列4気筒1.8LエンジンはNAで115馬力である事。
☑走行距離はシンガポールでは平均的な約35,000kmである事。
☑エアコン、CDプレーヤー付であり、事故歴がない事。
☑価格は当時の日本円換算で約600万円(例のCOE付)としたいとの事

これらの説明を受けた後に早速試乗することになり、シートの位置を調整して好みのドライビングポジションをとりました。

そしてDレンジでゆっくりと走り出し、広い通りに出てからアクセルを強めに踏み込んだのですが、その時の印象は、「これが名門BMWの人気のスポーツセダン?」と首を傾げる程「普通の加速」であり、正直言って期待が大き過ぎた感がありました。

それでも30分間程の試乗では、埋め立て地域内の空いている直線道路で、フル加速や蛇行運転、そして手放しでの急停車等を試みて、中古車ならではの問題が潜んでいないかの確認をしました。

また、タイトなコーナーを速めのスピードで攻めたりもしてみました。

その結果、加速時の異音の発生、手放し運転時の直進性の悪さ、急ブレーキ時のフラツキ、更にはコーナーリング時の不安定感等の問題が全くないことが確認出来ました。

それどころか、シートとサスペンションの適度な硬さ、そして15インチから17インチにインチアップされたワイドタイヤの為か、コーナーリングでのロールが少なく、久しぶりにFRの面白さを味わう走りが出来たのです。

こうして試乗を終え、その結果に基づく価格の妥当性を考慮しての結論を1週間後に伝える事としてその場を離れたのでした。

そしてその一週間で検討したことが「普通の加速」以上が期待出来るであろう150馬力の6気筒モデル「320i」でした。

実は例の不動産屋さんが乗っていたBMWがこの320iだったのです。

そこでその彼に話をしたところ、予算内での出物が見つからないとのことからそれを諦め、試乗した「318i」を購入することになったのです。

間に入ってくれた不動産屋さんの交渉で、少しだけ価格を下げて頂けたので、その分を不動産屋さんへのお礼として支払い、やっと高層アパートの地下駐車場に停める車が出来たのです。

BMW318iのオーナーになってみて

名義変更その他の手続きが完了するまでには1週間程かかるとのことでしたので、その間で不動産屋さんが貸してくれたBMWのカタログや雑誌などを読むと、購入した318iについて以下が分りました。

1⃣BMWの3シリーズは、1975年の“E21”が初代であり、その後1982年に“E30”となり、“E36”は1990年にモデルチェンジした3代目となる。

2⃣2代目からの主な変更点は、ボディーサイズの拡大と、丸型4灯ヘッドライトが異形4灯になった点。そして、私が購入した97年モデルからはボディーカラーに合わせたカラードバンパーが採用され、サイドステップやリアスカートも同色になった点。更にハイマウントブレーキランプも標準装備になった点。

 

全ての手続きが完了し、SBFXXXXRのナンバープレートを付けたBMW318iが納車されたのは平日の夜でした。

翌朝にはこの車で初出勤となると、その夜のうちに少し走り慣れておいた方が良いと考え、ガソリン補給がてら早速夜のドライブに出かけました。

相変わらずの普通の加速感ではありましたが、試乗時程の期待はしていなかったのでそこには失望感はありませんでした。

不思議なもので、自分の車になったと思うと、試乗の時のような走りは慎むようになり、この車本来の姿かも知れない「ちょっとオシャレな大人のスポーツセダン」の走りになっていました。

高速道路での100km走行も試し、近くに有るBPのガソリンスタンドで満タンにしてから駐車場に戻ったのは夜遅くになっていました。

そして翌朝です。

「軽快なジャズのイントロで目を覚まし、時計を見ると午前7時、渋々ベッドから抜け出してリビングルームに移ると、そこには既に明るい朝日が」となるはずのその朝は小雨でした。

BMW318iでの初出勤は、駐車場を出るところでの失敗で始まりました。

それまでの試乗や前日の慣らしで分かっていたはずでしたが、ワイパーのスイッチを入れようとしてウィンカーを出してしまい、慌ててウィンカーを戻してワイパーをONにしたのですが、間欠のスピード調整に手間取っているうちに後ろの車からクラクションが・・・

そうして走り出し、雨が止んだところでワイパーをOFFにするはずが今度はウィンカーを・・・

日本車とはハンドルを挟んで左右反対の位置にあるこの二つのレバーの操作間違いはその後も何回かありました。

やっと慣れて週末を迎え、マレーシアまでのゴルフに行く朝になりました。

ゴルフセットは問題なくトランクに入りましたが、恐らく3セットは無理な気がしました。

シンガポールでは3人や4人が相乗りでゴルフに行くことは無かったのでその点に不満はありませんでした。

マレーシアとの国境までは約30分、そこからゴルフ場までも約30分の高速道路走行ですので、マレーシア側では100マイル走行(もちろん違反ですが)も一瞬試してみましたが、安定感があり、静かさも合格点でした。

こうしてBMW318iとの平日と週末が続き、1年半程経過した頃に、一つの問題が発生しました。

それはルーフの内張りの部分的な剥がれです。

新車登録から約3年半で内貼りが?

日本車では考えられないこの不具合に、シンガポールのBMWディーラーでは「常夏の国特有の暑さに起因するもの」との説明でした。

その修理にはかなりの修理費と日数がかかるとのことから、帰国までのあと半年間、我慢して乗ることにしました。

BMW318iとの別れ

その半年後が近づき、帰国準備に入ると、前回の日産サニーの時のように買取り業者への売却が必要になります。

日産サニーの時は、2年落ちで160万円、日本での新車価格程の値落ちになりましたので、この車もその位は覚悟していましたが、結果的には130万円程でした。

4年落ちのBMW318iが日本でどの位の価格なのかは分かりませんでしたが、私にとって初めてのBMW、そしてスポーツセダンは十分満足できる買い物であったと満足しています。

そしてその車のオーナー経験こそが、帰国後に乗ることになる日本のスポーツセダンへと私を向かわせたのです。

(ライター :ゴル)

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