元エンジン開発者が解説する、エンジンオイル交換の必要性~低負荷でも要交換!

こんにちは!元エンジン要素研究員でモータージャーナリストの大林寿行です。

皆さんはエンジンオイルを定期的に変えていますか?

一般的にエンジンオイルは、5000km~20000kmなどの一定の距離、または1年などの期間での交換が推奨されていますが、この記事ではエンジニア視点でエンジンオイルの交換の必要性と、エンジンオイルにシビアな乗り方、優しい乗り方について、エンジンオイルの劣化メカニズムに触れながら、なるべく専門用語を使わずに分かり易く解説します。

エンジンオイルに求められる役割

エンジンオイルの交換が必要である理由は、ズバリ「本来エンジンオイルが果たすべき役割が果たせなくなるから」と言えば簡単ですが、では本来エンジンオイルが果たすべき役割とは何なのでしょうか?

エンジンオイルに求められる役割は、主に次の2つです。

・エンジン内部に油膜を形成する事により、金属摩擦と温度の上昇を防ぐ事
・エンジン内部の洗浄作用

走行や経年劣化により、これらの役割が果たせなくなる為にエンジンオイルの交換が必要になります。

油膜切れはエンジンに良くない!油膜切れが発生し易くなる条件

エンジンの油膜切れが発生し易くなる原因は、以下の3つです。

・熱によるオイルの劣化
・水分希釈によるオイルの劣化
・排ガスやブローバイガスによる劣化

熱によるオイルの劣化

熱によるオイルの劣化は、ある一定の温度上昇を伴ってしまう時に起こります。

現在、市販されているオイルは、マルチグレードの物がほとんどですが、高温側のグレードが高い程、熱に対する粘度が高く設定されています。

しかし、それには条件があって、油温が100度程度までであれば、粘度が低下する事はないのですが、130~140度になってしまうと、ベースオイルとの炭化水素の結合が、熱や酸化成分や機械的なせん断により切れ出してしまい、粘度が低下してしまいます。

油温が120度になると1番手、130度になると2番手、粘度グレードが下がると言われています。

水分希釈によるオイルの劣化

水分希釈によるオイルの劣化は、オイルが80度を下回って走る事が多い時に起こります。

エンジン自体が軽負荷で稼働している頻度が多かったり、燃焼のオン・オフが多かったりすると、油温が上がりにくく、湿気により水分が通常よりも多く含んでしまいます。

また、ピストンとライナーのクリアランス、リングとリング溝のクリアランス、10を切るようなA/F比、ポート噴射の場合は、インジェクターの取り付け角度や内壁の面粗度が鏡面に近かったりすると、ガソリンが筒内の燃焼圧力発生に伴い、ブローバイガスと共にクランクケース内にブローダウンして、オイルを希釈させる事があります。

ブローバイや排ガスによるオイルの劣化

ブローバイガスとは、エンジンの燃焼室内で混合気が燃える際、ピストンリングの合口隙間からクランケースにブローダウンした未燃焼ガスの事です。

このブローバイガスは、CO HC NOx等が含まれており、特に高温になるとNOxが発生しやすくなります。

NOxの主成分は、一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)であり、これらが湿気等の水分に溶けると硫酸(H20+NO2⇒H2NO3)や硝酸(H20+SO2⇒H2S04)になってしまい、それらの酸性物がオイルを劣化させてしまいます。

最近のクルマは、理論空燃比14.7より高いリーンバーン燃焼が主流になっており、燃焼温度が上がり、NOxが高くなっているため、オイルにかかる負担は非常に大きくなっています。

エンジン内部の洗浄作用が働かなくなる条件

ここまでに、熱、水分、排ガス要因による、エンジンオイルの劣化について述べました。

更に、熱による要因である温度は、上昇下降と目まぐるしく変化するため、エンジン内部の燃焼室温度が下がれば、煤が発生しやすくなり、スラッジが発生し易くなります。

また、湿気から発生する水分によるオイル希釈が進むと、オイル自体がヘドロ状態となり、ヘッドカバー裏、動弁系周り、オイルライン等にデポジットが堆積して行きます。

これらが混じり合う事によって、エンジンオイル内の添加材自体の機能が低下し、エンジン内部にコンタミ(異物)混入が促進し、オイルの洗浄作用が衰えていきます。

ちなみに、オイル添加材の主な目的は、酸化防止によるスラッジ抑制、油膜保持による摩耗抑制、錆防止によるエンジン部品の保護になりますが、これらが、熱、水分、排ガスからオイルの性能を安定的に発揮するために添加されています。

エンジンオイルに優しい乗り方

次にこれらを踏まえて、エンジンに優しい乗り方について解説します。

・1つ目は、油温130度を超えるような、高負荷領域でクルマを走らせた場合は、必ず新油に交換する事。
・2つ目は、オイルに混じり込んだ余分な水分やガソリンを蒸発させるために、80~100度程度(目安: エンジン暖気完了後、15分以上の軽負荷走行)まで油温を上げるクルマの乗り方をして、中途半端にエンジンの始動停止を避ける事。

参考までに、ハイブリッド車は、エンジンの稼働時間が短いため、エンジンの油温低下を招いてしまい、オイルに求められる劣化性能は、よりシビアになります。

市場で不具合が出た車で、アイドルストップが多いエンジン内部を確認すると、湿気から発生する水分によるオイル希釈が進む事によるデポジットの堆積が、エンジン内部のあらゆる所で発生します。

燃費を優先したハイブリッド車は、ガソリン車以上にオイル劣化が大きく、メーカーが挙げているシビアコンディションに該当する走り方をされる方は、早めの交換をおすすめします。

参考: ホンダが公表しているシビアコンディション

悪路(凸凹道、砂利道、未舗装路)での走行が多い

・雪道での走行が多い

・走行距離が多い (目安: 20,000km/年)

・山道、登降坂路での走行が多い (目安: 登り下りが多く、ブレーキの使用回数が多い。)

・短距離の繰り返し走行が多い (目安: 8km/回)

・外気温が氷点下での繰り返し走行が多い

・低速走行が多い場合 (目安: 30km/h以下)

・アイドリング状態が多い

全く乗らない車でも、エンジンオイル交換は必要?

エンジン内部は、燃焼室の目まぐるしい温度変化により煤や結露が発生する事になります。

要するにガソリンや水分がオイルに混ざる事になる訳ですが、それによって、オイル自体が乳化してヘドロ化してしまい、それがヘッド上部やオイルラインに堆積することで、エンジン不調となる事があります。

また、オイルが希釈される事で、油膜保持力及び防錆機能も低下する事になり、結果的にエンジン内部のムービングパーツの摩耗促進や錆による機能破綻も懸念されます。

稀にエンジンに火を入れる乗り方をする頻度が多いケースこそ、こまめなエンジンオイル交換が必要です。

まとめ

エンジオイルは、高負荷で車を走らせたなケース、たまにしかエンジンを掛けないようなケースでも劣化しますので、オイル交換は、如何なる乗り方であっても、少なくともメーカーが推奨するタイミングで交換する事が望ましいと言えます。

また、交換周期が短いほど、あらゆる使用条件において、エンジン内部の機関は良好に保つ事が出来るので、長く今の愛車と付き合っていきたいと考えていらっしゃる方は、是非、小まめに交換してあげて下さい。

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