みなさんは、愛車を手放すとき、どのようにして処分しますか?
ほとんどのオーナーさんは、自動車の買い取り店へ売却するか、次の車に下取りとして処分します。
では、その買い取り、下取りの値段を決めているのはどんな人たちかご存知ですか?
中古車の値段を決めているのは「中古自動車査定士」という資格を持つ人たちです。
今回は、中古自動車査定士についてご紹介いたします。
「中古車査定士」とはどんな資格?
中古自動車査定士とは、一般的には中古車査定士と呼ばれる職業で、その名前の通り中古車の価格、状態を評価するお仕事のことです。
中古車査定士には「小型車査定士」と「大型車査定士」の二つの資格があり、それぞれ技能試験を受験する必要があります。普通車の査定をするのであれば、小型車査定士の資格のみで十分です。
受験必要資格
中古車査定士の資格を受験するにはいくつかの資格や条件が必要になります。
自動車運転免許を所有していること
自動車の運転免許証を持っていないと受験はできません。
そして、小型車査定士と大型車査定士では、免許証の内容に違いがありますので要注意です。
- 小型車査定士…自動車普通免許以上
- 大型車査定士…自動車大型第一種免許以上
自動車の販売または整備の経験が半年以上であること
自動車の販売や整備の経験が半年以上ないと、受験することができません。
ディーラーだけではなく、中古車販売店、買い取り店での実務経験を経て、受験ができます。
協会の講義、研修を終了していること
中古車査定士になるためには、実務だけではなく、中古車の値段を算出するための研修を受講する必要があります。
以上の条件が満たされると、中古車査定士の資格が受験できます。
「中古車査定士」になるにはどうすればいい?
必要資格にも書きましたが、中古車査定士の資格を取るにはまず自動車販売店で半年以上の勤務経験が必要になります。
それは、ディーラーでも、中古車販売店でも構いませんし、私は中古車・事故車買い取り専門店に勤務して、この資格を取得しました。
ですが、正直に言えば、この資格がなくても実質、中古車の査定士にはなれます。
大切なのは車の時価を知っている事
中古車の査定に大切なことは、その自動車が「現在」「いくらの値段」がつくのかを知っていることです。
これは、毎日オートオークションで落札金額をチェックし相場を身に着けるほか手段はありません。
自動車は「生もの」と同じです。
大げさに言えば、今日と一週間後では、査定金額に差が出ます。
こうした「動き」を把握することさえできれば、中古車査定士という資格がなくても査定の業務に就くことはできます。
ただし、やはり資格があるのとないのとでは、一般ユーザーからの評価が違うと思うので、資格はあるに越したことはないと思います。
新車販売ディーラーは、勤務年数の条件が満たされた新入社員には順次、この中古車査定士の資格を取らせます。
私も試験会場で取引先の新入社員さんにお会いしましたが、この資格を取得しても実際ディーラーの営業マンは値付けしません。
彼らがこの資格を取る理由は、ディーラーが使用している査定用紙への記入の基礎を学ぶためです。
この用紙へ自動車の情報を記載して、本社へ転送し、実際に値段をつけるのは本社勤務の人間です。
ですが、ゆくゆくは新車の販売と同時に下取りを取ることになるでしょうから、その時に現場の販売員である営業マンが査定できないと本社も下取りの金額が決められませんよね。
事故歴無しで下取りしたのに、入庫してみたら事故車だった、なんてことになったら大赤字です(よくあります(笑))。
このような事態を避けるために新車販売ディーラーの営業マンもこうした資格を受けるのです。
中古自動車査定士の資格取得の申し込み
では、勤務年数をクリアしたあとですが、中古自動車査定士の資格を申し込みます。
中古自動車査定士という資格は『JAAI 一般財団法人日本自動車査定協会』が発行している資格で、この資格を所有する個人、その個人の所属する会社に証明となるものが贈られます。
まず、中古車査定士の試験は年に2回、実施されます(大型車査定士検定は年に1回)。
申し込みは4月と9月に募集されますので、必要書類を揃えて申し込みましょう。
必要書類
- 技能検定申請書
- 写真・2枚 (縦40mm×横30mm)資格取得後、顔写真入りの中古自動車査定士証が発行されます
- 運転免許証のコピー裏表
- 勤務する会社から証明のある経歴証明書 記入用紙は支所にありますので、事前に用意しましょう
- 整備士有資格者のみ「合格証書」又は「技能者手帳」のコピー
以上が申し込みに必要になります。
必要書類が揃ったら
各都道府県にあるJAAIの支所に上記の書類と受験費用を添えて申し込みましょう。
この試験は、真面目に受講し、自分のこれまでの知識があれば多くの場合、合格できます。
自動車の仕事に携わっていれば、あまり難しいものではないと思います。あと、資格の更新があるはずなので忘れずに。
詳細については
あなたが所属している会社が置かれている都道府県の支所にお問い合わせてみてください。
「中古車査定士」の仕事のやりがい
私はこのお仕事が大好きです。
理由は、査定する車、1台1台にドラマがあるから。
現在のオーナーさんの思い入れ、事故したときの状況、その後。
私が査定をするとき、それはまだオーナーさんがこの車を手放そうか、どうしようか悩んでいる最中なのです。
その背中を押すのが私たちだと思っています。
ですから、無理には買い付けません。
オーナーさんが心から納得した時、査定士としてのお仕事が完結します。
営業マンが下取りの査定を行えると会社との交渉がし易くなる
「中古車査定士」になるには?にも書きましたが、新車販売ディーラーや中古車販売店の営業マンがこの資格を持っていると下取りの査定に活かせます。
下取りに活かせるということは、次の新車の販売に繋がるということです。
たとえば、ある車を営業マンが下取りの車を査定し、下取りの査定用紙を見た本社が50万円の下取り金額を指示してきたが、お客様の下取り希望額は60万円だったとします。
その時に、営業マンが査定した下取りの車の「長所」を本社に売り込んで55万円まで下取り金額がアップすると、お客様との商談材料になりますよね。
中古車に対する知識や経験があるのとないのとでは、車の販売にも差が出るのです。
経験を積めば積むほど目利きが付く
私たちのような買い取りを専門で行っている業者は、自動車を査定すればするほど経験値や知識量が上がり、「自分の財産」になります。
中古車の査定士は、今現在販売されている自動車の名前、金額が頭に入っているだけでは務まりません。
最低でも過去に販売されていた車種、年式、排気量、グレード、装備を把握していないといけません。
毎日、国内外さまざまなメーカーの自動車を査定し、そのたびに自分の知識量が増えていくことがとても喜びを感じる瞬間です。
一時期、トヨタのヴィッツばかり買い取りを依頼されたことがあり、コーションプレートや装備を見ただけでグレードが分かるくらい毎日、毎日ヴィッツ祭りでした。
もうヴィッツはいいです…って心の中でつぶやきながら、ヴィッツの事故車ばかりを査定していた思い出があります。
査定を依頼していただけるだけでもありがたいので、贅沢な悩みですね。
あとは、自然と身につくのが、前期モデルと後期モデルの見分け方です。
自動車業界では、前期モデルは「試作品」という人もいるくらい、前期モデルと後期モデルでは外装内装ともに差がつけられます。
やはり後期モデルのほうがパリッとかっこいい仕上がりの車種が多いですよね。
職業病で、街を走っていると、自分の前に走っている車の前期後期が気になります(笑)。
「これはモールがついてるから、前期」「こっちはナンバーがゲートについてるから後期」なんて、同乗している同僚や友人と話したりします。
「自分では乗れないような車」の査定ができる
私は、自動車が好きでこの業界に入っていますから、何にせよ自動車に関することは苦ではありませんでした。
雨の中、輸出に向けた商品車の汚れを洗車して落としたこともあります。
依頼を受ければ、150㎞離れた土地へすぐに査定に向かうこともあります。
それでも、査定し、買い付けることができた時の喜びは、何にも代えられず勤務して何年たっていようが、これまで何台買い付けていようが1台1台に思い入れがありました。
車が好きな私にとっては、一番の楽しみだったのが「自分では乗れないような車」の査定ができることです。
発売されたばかりのレクサス、GT-R、一番興奮したのが、ランボルギーニです。
あのエンジン音を間近で聞けて、乗ることができたワクワク感は、普通のディーラーでは難しいでしょう。
査定士、買い付けをしていなければ経験できなかったと思います。
「中古車査定士」の仕事の大変なところ
前にも書きましたが私はこのお仕事が大好きです。が、大変なことは?と聞かれると、そんなの「全部!」です。
暑かろうが寒かろうが査定時の見落としは決して許されない
見落としは金額に大きな差が出るので許されません。
お仕事のある日は、毎日車と向き合わなければなりません。
炎天下でも、雨の日でも、雪が降っていても。
以前、雪深い土地にある中古車販売店から依頼を受けて査定にいったところ、ヤードに置いてあると言われたので雪の上を歩いていきました。
もちろん、スーツです。
査定する車に向かっていたら、圧雪されてない雪の上に踏み込んでしまい、腰まで雪に埋もれました(笑)。
雪から脱出出来たら、査定のために車の周りを雪かきです。
まずそこからなのです。
真夏には、ボンネットも車内も、もう嫌になるくらい暑い!暑いのに、走行距離、車内の装備、破損個所などをチェックするまで降りれないんです。
見落としがあったら、査定金額にも響きますからね。
日焼けを気になんてしていられません。
車内のチェックが終わったら次は、外装。
ぐるっと一周チェックしたのち、熱いボンネットを開け、腹下も必ず見ます。
真夏のアスファルトに這いつくばっての査定…あぁ思い出しただけで汗が出そうです。
そして、こんな気象条件だけでうだうだ言っていられません。
自殺者車両や冠水車両も
私は、女性だったので上司が配慮してくれていましたが、年に数台は自殺車両なんかも査定しました。
一酸化炭素中毒による自殺の車両なんかは、外装、内装ともに綺麗なものですが「臭い」の点が悩みでした。
廃車にしてしまうご遺族もいるようですが、自動車は立派な財産です。
買い取り業者に依頼してお金に換金するご遺族もいました。
原形をとどめていない事故車は毎日のように見ていましたが、この自殺車両、冠水車両、盗難車両はイレギュラーで、たまに依頼がありました。
盗難車両だと、普通に近場で乗り捨てられて発見される場合も多く、その場合、警察の鑑識が指紋を取れなくするために犯人が車内に消化器の消火剤をぶちまけられていることもありました。
…座れないです。
座ったら私が真っ白になります。
でも室内のチェックも怠れません。
こんな時は、ゴミ袋をシートにかけて乗り込んで査定をしました。意地ですね。
特に私は普通の査定士ではありませんでしたから(事故車や故障車をメインで買い付けていました)、街の買い取り屋さんよりもハードな経験をしていると思います。でも、それもこれも、私の財産です。
綺麗な中古車ばかり査定しているより、いろんな背景を抱えた中古車・事故車を見ているほうが毎日楽しいものです。
人や車との出会いが喜び
最後に、査定士の資格を検討しているあなたへ。
一個人の私が言うのもアレですが、とてもいい資格です。
あなたの目利きが中古車の価値を決めるのですから。
査定士は毎日が出会いで溢れています。中古車に出会い、そのオーナーさんとも出会います。
こうした出会いと、査定する喜びがこの資格の魅力ではないでしょうか!
(ライター:中古車査定士ryo)
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